2008年05月21日
■シェイクスピアのワイン

「シェイクスピアのワイン」多田稔訳(2002年丸善プラネット刊)は、
ロンドンの「ワイン&フード協会」を創設した、アンドレ・シモン氏(1877-1970)の、
シェイクスピア生誕400年祭記念講演(1964年)をまとめた私家版小冊子である。
訳者の多田稔さんは、この4月まで、十勝の私大の学長を勤められた。
この本の邦訳は、恩師から原著を譲り受けた多田さんの、長い間の念願であったという。
シェイクスピア(1564-1616)の時代は、
エリザベス女王の治世(~1603)から、ジェームズ一世の時代(1603~)。
日本でいえば、豊臣時代から徳川時代初期にかけて。
ヨーロッパも中世から近世への橋掛りの時代だ。
シェイクスピアの劇中に登場するワインや酒亭(タヴァーン)をとおして、
あらためて当時の日常が伝わってきて興味深い・・・。
・・・・・・・・・・・・・・
シェイクスピアの時代には、誰も水を飲むことは致しませんでした。
水は安全な飲物ではなかったのです。
国内のきわめて貧しい人たちは別として、
朝食にはエール、昼食にはビール、そして晩餐にはワインが、
すべての食卓で飲料としてもちいられておりました。(引用5頁より)
・・・・・・・・・・・・・
エリザベス女王の治世の大半にわたって、
ワインはイギリス全土にまんべんなく行きわたっており、
また安価でもありました。(引用13頁より)
・・・・・・・・・・・・・
当時、「ブランデー売り女」というのがいて、
「燃える水」と呼ばれた火酒を、軒なみに行商したり、
ペニー銅貨しか酒代にまわせられない徒弟どもを相手に、
街頭で一杯売りをしたりしておりました。
けれども、酒亭(タヴァーン)では、
こうした蒸留酒のたぐいは売られておりませんでした。
『十二夜』では、アクア・ヴィタエ(命の水・強酒、ウィスキー、ブランデーなど)は
産婆の常用する酒として言及されているだけにとどまり、
『ロミオとジュリエット』では、
この酒を求めているのはジュリエットの乳母だけにすぎません。(引用20頁より)
しかし、ジェームズ一世の時代になると、様相は一変する。
ワインの価格制限を撤廃し、販売免許をカネで売ったのです。
結果ワインは高騰し、消費量が激減、蒸留酒の需要が増大したのです。
なるほど、どこかの国の構造改革みたいですが、
背景には気候変動や財政難等、「欧州危機」といわれる出来事があったのでしょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シェイクスピアの劇作は、エリザベス時代のものと
ジェイムズ一世の時代のものとに、分けられるように思われます。
つまり、前者は、シェイクスピアが楽しくワインを飲むことができた昼の時代の作品であり、
後者は、彼が不健康な火酒を飲んでいた夜の時代の作品だということです。(引用31頁)
・・・なるほど、エリザベスが没し、ジェイムズ一世の、夜の時代の到来を暗示する作品。
それが大傑作「オセロー」「リア王」「マクベス」だったのだ。
ジェイムズ一世といえば、上の引用のエピソードでも解るが、
アイリッシュウイスキー「Bushmills」ブッシュミルズの免許も与えた。
これがアイルランド最古の蒸留所=オールドブッシュミルズだ。
1608年の出来事だから、オールドブッシュミルズはことし免許公認400年という事だ。
ワインの急激な高騰により、シェイクスピアが飲んだ「不健康な火酒」が、
まろやかなブランデーとなるまで、
また、ウィスキーが熟成を加えて、
今日の旨いシングルモルトに進化するまで、まだ、ながい時間が必要であった。
しかし以後世界は、ワイン・水・エール・ビール・蒸留酒・・・、
そしてコーヒー・タバコ・紅茶・チョコレート等をめぐって、おおきく動き始めるのだ。
Posted by バイヤー君 at 23:06│Comments(1)
│■BOOK
この記事へのコメント
歴史は暗記するものという固定観念を持っている小生には
大変興味深い内容でした。(@_@)
国の衛生環境が育てた文化とでも表現しましょうか?
衛生環境といえば、「フランス料理」のことを聞いてみたいですね。
小生の認識では、海に面していながら衛生面で劣るために
生食の文化が育たずに素材を加熱しグチャグチャ(?)にしたメニューが多い
と感じているのですが、如何なものでしょう?
話は変わりますが、
昨夜、クラブに行って参りました。
素敵な先客がおられ店自体の雰囲気は「人と空間とが作り上げるもの」だと思い知らされました。
小生は、いつもの指定席に座りArranを注文!
先客氏「それはどんなお酒なの?」
小生は蘊蓄を1分程ご披露。
先客氏「なるほど芳醇で良い香りだね!」
しばし雑談・・・
そこへ、ロマンスグレーのインテリ氏が登場。
お互い軽い挨拶を交わした後
インテリ氏「Arranを下さい」
先客氏「へぇ~人気があるんだね!」
小生「でしょう、でしょう」とちょっと自慢げ。
インテリ氏、キョトン!
とっても和やかな一日でございました。
感謝感謝
大変興味深い内容でした。(@_@)
国の衛生環境が育てた文化とでも表現しましょうか?
衛生環境といえば、「フランス料理」のことを聞いてみたいですね。
小生の認識では、海に面していながら衛生面で劣るために
生食の文化が育たずに素材を加熱しグチャグチャ(?)にしたメニューが多い
と感じているのですが、如何なものでしょう?
話は変わりますが、
昨夜、クラブに行って参りました。
素敵な先客がおられ店自体の雰囲気は「人と空間とが作り上げるもの」だと思い知らされました。
小生は、いつもの指定席に座りArranを注文!
先客氏「それはどんなお酒なの?」
小生は蘊蓄を1分程ご披露。
先客氏「なるほど芳醇で良い香りだね!」
しばし雑談・・・
そこへ、ロマンスグレーのインテリ氏が登場。
お互い軽い挨拶を交わした後
インテリ氏「Arranを下さい」
先客氏「へぇ~人気があるんだね!」
小生「でしょう、でしょう」とちょっと自慢げ。
インテリ氏、キョトン!
とっても和やかな一日でございました。
感謝感謝
Posted by sarry at 2008年05月22日 08:55





